2008年7月11日金曜日

戸塚洋二氏 死去

http://sankei.jp.msn.com/culture/academic/080710/acd0807102148008-n1.htm

物理学に携わるものだけでなく、日本人にとって残念な訃報です。
東京大学名誉教授で、毎年のようにノーベル賞候補にあがっていた戸塚洋二氏が先日がんで亡くなられました。68歳の早世でした。

彼はノーベル物理学賞受賞者である小柴氏の愛弟子として有名で、スーパーカミオカンデによるニュートリノ質量の発見という非常に重要な研究をした方です。

 僕は素粒子物理学というのはかじってもいないひよっこのひよっこですが、そんな人間でも素粒子物理学に関心のある日本人として当然彼の名前は知っています。東大の国際素粒子センターを訪問した際にはお喋りでエネルギッシュな教授陣とお話をする機会があり、小柴組という言葉を連想させるような脈々と受け継がれている熱気を感じました。そういったこともあり、東大素粒子実験グループ(小柴組)には勝手ながら親近感を抱いていた者としても、小柴組の弟子第一世代の代表ともいえる戸塚氏の死は残念でした。
 
 ただ戸塚氏は亡くなったとはいえ、さらにノーベル賞が取れなかったとはいえ、その業績が消えるわけではありません。代表的な業績であるニュートリノ質量の発見について知っている範囲で説明します。研究のインパクトとしては、ニュートリノ質量の発見は当時の米国大統領であるクリントン氏が「根源的な理論を変える」と発言しているほどです、おそらく日本の政治家は全くその重要性は認識していないでしょうが。この発見は日本人びいきを差し引いてもかなりのお釣りがきます。

 経緯としては、世界に存在する重力・電磁気力・弱い力・強い力の四つのうち重力を除く三つの力を記述した標準模型という理論があります。これは理論家が力を合わせて作った20世紀物理の結晶と言われています。そしてこの理論を実験家が高エネルギー実験をはじめとしたあらゆる手法で検証しましたが、ことごとく標準模型の予想に一致したわけです。ある実験物理学者は「標準理論は強すぎる(強すぎて新しい発見が見つからない)」と言ったほどです。

 ではこのまま標準理論が勝つのか、そうではありませんでした。標準理論の枠組みの中ではニュートリノは質量を持ちません、そう、戸塚氏の指揮するスーパーカミオカンデのグループがニュートリノの質量を発見したのです。それがクリントン氏の「根源的な理論を変える」という発言に繋がるわけです。ここから標準理論は枠組みの拡大を迫られ、物理学者は再び新しい理論へ挑んでいます。

素粒子に関わる人々、少なくともはっきりと東北大と東大にいる物理学者たちは、今を
革命前夜
とよく言います。それは2年建設が遅れたジュネーブにある加速器、LHC(Large Hadron Collider)が今年始動するからです。LHCという陽子と陽子を衝突させて人類が過去最高のエネルギーを実現する加速器を使い、そのエネルギー領域までいかないと見えない新粒子を探索するのです。そういう意味でエネルギーフロンティアと呼ばれています。
 標準理論を越えるためには、新粒子の観測、そしてその性質の解明が不可欠なのです。標準理論を反証して世界が注目するLHC実験への一つの流れを作った戸塚氏こそ、この実験の行方を知りたかったことでしょう。

戸塚洋二氏のご冥福をお祈りします。

0 件のコメント: