2011年10月4日火曜日

ノーベル賞にまつわる獲りのがした話

ノーベル賞の季節がやってまいりました。

昨日は2011年医学生理学賞の発表でした。
受賞は「自然免疫」と「獲得免疫」
Bruce A. Beutler and Jules A. Hoffmann "for their discoveries concerning the activation of innate immunity"
Ralph M. Steinman "for his discovery of the dendritic cell and its role in adaptive immunity".

2011年は免疫での受賞となりましたが、ここで獲り逃したのが、同じく自然免疫研究で第一人者の審良氏(阪大)。

審良氏はしばらくノーベル賞の候補にあがってましたが、ノーベル賞受賞は3人まで、しかも類似業績は再びノーベル賞にはならないのが慣例なので、受賞はできなくなりました。ノーベル賞受賞者が増えると、政治家は単純だからそれだけで科学予算を減らしにくくなるので残念です。

去年は逆に、鈴木氏と根岸氏が科学賞を受賞して、ほかに外国の方で受賞を逃した人がいたみたいでした。
よく知らないですが、受賞対象が「鈴木(根岸)カップリング」とかだったので、他にも「**カップリング」を開発した人はたくさんいそうだな、と素人目には見えます。想像するに、逃した人は1人じゃないんでしょう。


審良氏の例だけでなく、物理にも何人も受賞を逃した人がいます。

昨年の物理学賞はグラフェン(炭素の単一層)に関する研究でした。
そこで、ニュースになるのが「カーボンナノチューブ」。カーボンナノチューブはグラフェンをくるくるっとまるめた物質で、日本人の飯島氏が発見し、理論と実験の発展に日本人が寄与しています。
しかし、グラフェンでノーベル賞をとってしまうと、物理という大きな分野から見るとグラフェンとカーボンナノチューブは同じ分野と言わざるを得ないので、カーボンナノチューブでのノーベル賞は難しいでしょう。

物理学賞は数年前の光ファイバーに関する受賞でも、西澤潤一が獲りのがしています。東北大出身者として、光ファイバーでのノーベル賞は西澤潤一が入るに違いないと半分信じきっていました。なので、このニュースは驚きでした。


こうやって、科学分野がどんどん広がり、科学者の数も増えているのに対し、ノーベル賞の数と「3人」までという制限は変わりません。なので、受賞を逃す人も増えてるわけですね。
最近の印象としては、色んな業績を1つのキーワードで無理やりつなぎあわせて1回の受賞にしていると思います。

今回まとめられた「自然免疫」と「獲得免疫」も、専門家からすると非常に異なる研究分野なのでしょう。


私は素粒子が専門なので、最後の素粒子のノーベル賞(2008年)について述べましょう。
受賞者は、南部陽一郎、小林誠、益川敏英で、「対称性の破れ」が対象業績でした。

エッ?全然関係ないやん。

南部さんはヨナ・ラシーニョ(イタリア人)と共著の論文で、素粒子に「自発的対称性の破れ」という概念を持ち込んだ人です。それから、電弱対称性の破れにつながっていくるわけです。

しかし、小林・益川がやったのはクォークでのCP対称性の破れ(物質と反物質の対称性の破れ)を説明するために、3世代クォークモデルを導入(3×3の小林益川行列)を行いました。ちなみに、2×2はカビボ(イタリア人)が現象論モデルで提唱してたらしいです。カビボの理論ではCP対称性は説明できないんですが、歴史的な流れから小林益川行列は、世界的にはCabibbo-Kobayashi-Maskawa matrix(CKM行列)と呼ばれます。

つまり言いたいことは、専門からすると異なる業績の合体受賞なわけです。

2つの業績がバラで受賞したとしたら、
だいぶ昔に南部・ヨナラシーニョで受賞して、2008年に小林・益川・カビボで仲良く受賞になったんでしょう。


なんでこんな事がおきたのか?
南部陽一郎というのは偉大な物理学者で、「自発的対称性の破れ」だけでなく他にも先駆的な業績(カラーの導入、クォークのひも理論)をあげているわけです。しかし、彼はいわゆるノーベル賞を「獲りのがした人」だったわけです。自発的対称性の破れを応用した素粒子標準模型では、非常に多くのノーベル賞が出ているので、もう受賞は難しいと思います。

ノーベル賞は基本的に「人」ではなく、「業績」を称える賞であるため、複数の異なる業績を上げたので合わせ技で一本という形では選べないわけです。 逆にいえば、すごい業績を2つあげれば2つ受賞することは可能です(過去にいます)。

南部陽一郎はノーベル賞に値する科学者であるが、人にあげらないし、彼の業績のどれかを取り上げて単独であげるのにも今更感がある。そこで、ノーベル賞委員会が考えたのが『「CP対称性の破れ」であげるときに「対称性の破れ」をキーワードにして南部さんにもあげちゃえ』ということでしょう。

それで、ヨナラシーニョとカビボが外されて、南部さんが小林益川と一緒に受賞することになったのでしょう。

なので南部さんの受賞は実質的には「人」にあげた名誉賞的側面が強いと思います。


このように、ノーベル賞のウラにはいろいろドラマがあるわけです。

さて、今日は物理学賞、誰がとるでしょうか。文学賞で村上春樹はとるでしょうか。乞うご期待。

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